<真空管の構造と増幅のしくみ>
二極管の発展型、「三極管」と呼ばれる真空管では、2つの極の間にもうひとつ「格子(グリッド)」と呼ばれるものを置いてあります。そしてそのグリッドに与える電圧を変化させることで、2つの極の間を移動する電子の量を変える(電流を制御する)ことができます。これが「増幅作用」です。 初段の電圧増幅用真空管のグリッドに与える電圧はCDなどからの音声(音楽)信号電圧です。この電圧は1V前後と小さい電圧ですが、これをC電源回路で生成されたマイナスの電圧(固定バイアス電圧)としてグリッドに入力します(C電源による生成ではなく、自己バイアスと言う方式もあります)。音声信号は交流なので、グリッドに入力されると音声(音楽)の強弱、高さ(音程)により振幅が生じます。つまり電圧が上がったり、下がったりします。しかもここにはマイナス電圧が掛けられているのでヒーターで暖められたカソード(傍熱管の場合。直熱管の場合はフィラメント)から飛び出た電子(マイナス)は音声電圧の強弱(振幅)で、電圧が低い時は多く(電子の反発が少ない)、電圧が高いときは少なく(電子の反発が多い)飛ぶようになります。三極管では、カソードとプレート間に高い電圧をかけ、グリッドには適度なバイアス(マイナス電圧)をかけることで一定のプレート電流が流れるように設定します。このとき、グリッドにかかるバイアス電圧(マイナス)を音声信号の強弱に合わせ変化(高くしたり低くしたり)させプレート電流を変化(多くしたり少なくしたり)させます。真空管の特性によりまちまちですが、グリッド電圧を固定にしておき(マイナス電圧)、そこに増えたり減ったりする音声電圧を加えると、プレートにはより大きな電圧変化として現れます。これが真空管の増幅作用です。この電圧の変化(増幅の度合い)は、真空管の規格を説明した書物に載っているプレート特性(下図のEp−Ip特性曲線)を見れば判ります。例えば、下図にある電圧増幅管12AX7の特性曲線を見ると、グリッド電圧2Vの変化(-2.5Vから-0.5Vまでの2V:図中の赤い線)がプレート電圧では約125V(190Vから65Vまで:図中の青い線)となり、増幅率は125÷2=62.5で約63倍の増幅となります。ちなみに、赤い線でたどった斜線はロードライン(負荷抵抗線)と言い、この例の場合はプレート電圧は200Vとして200kΩの負荷線です。また、変化したプレート電流に「負荷(抵抗)」をかけることで、より大きな音声信号を取り出しています。
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<A級動作> ロードラインが載ったEp−Ip特性曲線を見て、プレート電圧からカソード電圧(自己バイアスの場合)を引いた値をプレート電圧側とし、カソード電圧をその抵抗で割って求められる電流をプレート電流側として、その交点がアイドル電流(全く信号が無いときに流れる電流)となりA級動作点となります。この電流値は全く信号がないときでも出力段(電力増幅段)の真空管に常に流れる電流で、A級動作ではこの電流による消費電力が無駄となります。つまり、信号があるときは消費電力がスピーカーを駆動するのに 使用されますが、無信号時は、ただ消費しているだけです。何と無駄なのでしょう。でも、AB級やB級ではスイッチング歪が発生しますが、A級は絶対にありません。いい音ですからA級動作は採用されています。基本的にシングルアンプはA級動作です。 |
<真空管の種類> 電圧増幅回路で使われる電圧増幅管には、12AX7、12AT7、12AU7、6SL7、6SN7などの双三極管(三極管2つが1つの真空管に収まっているもの)やEF86(6267)、6SJ7などの五極管と、多数あります。電力増幅回路に使われる出力管には6L6系(6L6G,6L6GC,807など)、2A3、KT88、KT66、300Bなど多くあります。真空管は特性や形状・概観などによりビーム管、直熱管、送信管、ノーバル管など様々な区分けで呼ばれています。 |
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